【読書ノート】『啓蒙思想2.0』第12章-ラスト

ちょっと同じような話がつづいてかったるいので、6章から11章までカット。頼りない合理性をいかに補完するか、という議論が始まる12章までワープ。

第12章 精神的環境を守る 選択アーキテクチャ再考

学校教育を終えた人に新しいものごとを学ばせるのは難しい(p376-380)

たとえば自由貿易における比較優位みたいなのを理解してもらうには、学校の教室みたいな環境がないと無理だ。理解してもらうにはそれなりに時間がかかる。その間黙って聞いていてもらわないとならない。話を進める上で、仮定を受け入れてもらわないとならないし、具体的な事情を捨象して脱文脈されたモデルを理解してもらわないとならない。

教室ならみんな黙って聞いていてくれるけれど、そうでなければ、そんなかったるい話を誰も最後まで聞いてくれない。テレビを見始めたり、SNSをチェックしたり、話の腰を折ったりするだろう。

社会で合理性を育むという点では、伝統的な正規の学校教育に代わるものはないのだ。

社会制度はユーザーフレンドリーであるべき(p398)

社会制度は人の合理性を補完してくれるけれど、ユーザーフレンドリーという視点に欠けている。

第13章 正気の世界への小さな一歩 スロー・ポリティクス宣言

扇動政治がはびこっていても近代の民主主義が生きながらえている理由(p410-411)

  • 直接制ではなく代表制。市民は政策を直接選ばない。
  • 司法審査の制度がある。国家権力が濫用されたらそれを無効にできる。
  • 中央銀行が政府から完全に独立している。だから、国民の顔色を伺うことなく金融政策を実施できる。

専門家に委ねてしまうよりも合理的な討議の前提条件を調える方が良い。(p412-421)

扇動政治を回避するために専門家に頼るというのも良いけれど、いろいろ問題もある。それよりも、合理的な討議の前提条件を整える方が重要だ。

ところで、理性というのは時間がかかるものなので、意思決定の過程はゆっくりにするべきだ。

たとえば議会での質疑応答をテレビ放送するのなら、長さ一分未満のシーンの再生は禁止するとかすればいい。あと、質問を事前に提出させることでサプライズの質問をしないようにさせるとか。

政治広告でイメージ画像とか音楽とかの使用を禁じて候補者の談話のみにするとかもいいですね。あと、「投票者抑制」といって、政治制度への反感を人々に抱かせて有権者への政治参加を抑制しようという汚いテクニックがあるから、それを防ぐために投票を任意じゃなくて強制にするとかもアリだ。

Twitterは字数制限があるから合理的な討論にはぜんぜん向かない。ブログの方がまだ可能性があるけど、動画コンテンツがメインになっていったら廃れる可能性はある。

この本読んでひとりで頑張ったってラチあかないから集団行動を(p426)

ここに、フローフード宣言にあやかり、スロー・ポリティクス宣言を行う。理性は大事。理性をきちんと働かせるためには自らをスピードから解放しなければならない。もうちょっと具体的なマニフェストはp426-428のあたりを読んでくれ。

全体コメント

何年か前に読んだときの記憶だと、もうちょっと具体的な提案がもっとあった気がしてたけど、そんなことなかった。具体的な提案として挙げられているのは、議会の質疑応答のシーンをテレビ放送するときは1分未満ではダメだとか、サプライズの質問はやめさせようとか、投票を義務にしようとか、それくらいだった。

なので、ちょっと物足りない気はする。理性の限界を外部足場で補完するというのが啓蒙思想2.0だと思うのだけど、だったら具体的な外部足場をもっとたくさん挙げないと片手落ちなんじゃないだろうか。あるいは、著者はあくまで哲学者だから、あとはこのスロー・ポリティクス宣言に共鳴した(「共感した」ではなく)人たちが考えていけばいいということなのかな? 下記の本なんかも討議へのナッジの使い方について触れている章があるので、ヒースの宣言を具体化した例といえるかもしれない。

あと、下記の本はまだ読んでないけど、Kindle版のサンプルに出てくる「無意識データ民主主義」ってのは、ヒースがさんざん批判してる直感に基づく非合理的な政治と何がちがうんだろう? あと、ずっと前に読んだ『一般意志2.0』と大して変わらないアイデアのようにも思うけど。いちおう読んでみようかなあ、と思いつつも、Kindle本だと著者の写真が大写しになってるのがうざくてあんまり買う気がしない(人新世本もそうだったけど、著者の顔をKindle本の表紙にするのはクソうざいのでやめてほしい。個人攻撃というのではなくて、本の表紙を飾れるくらいの素晴らしい顔というのは世の中にそうそう無いと思うのですよ)。