環境

【研究ノート】環境倫理学について考える(もう考えたくない)

私はこのブログの中で環境倫理学の悪口を何度か書いてきた。別に個人的に関係者に恨みがあるとかではなくて、単純に、勉強しても面白くないと感じるからだ。関連する本を読んでみても、あまり知的好奇心が刺激されない。「あんな問題もある」「こんな問題も…

【研究ノート】道徳問題における感情の役割について

感情は道徳問題を悪化させるという議論 心理学や脳科学の観点から道徳について論じる議論の中には、感情は道徳問題を悪化させるものであるという主張が割と見られる。 なぜ感情が道徳問題を悪化させるのか? それは、感情は非合理なものであり、理性的な議論…

【研究ノート】どうしてメタ倫理学は「実在」にこだわるのか?

環境意識関連の論文の準備を進めている中で、感情と道徳の関係について関心が出てきた。 環境配慮行動系の論文を探すと、感情が行動に影響するとか、道徳意識が行動に影響するといった趣旨のものはそこそこ見つかる。でも、そういう研究はだいたい社会心理学…

【読書ノート】オストロム『コモンズのガバナンス』問読(第3回)

問い:長期にわたって持続的で自律的な共的資源管理を可能にする社会規範は、どうして維持されてきたのか? 入会地とか里山とか、なんだか素晴らしいもののように語る人たちのことがちょっと苦手だ。「協働」とか「絆」って言葉も、目の前に突きつけられると…

【読書ノート】オストロム『コモンズのガバナンス』問読(第2回)

イントロ もともとこのブログを始めたきっかけは『独学大全』に書いてあった「会読」という独学法を実践するためだった。 会読は、同じように本を読む人たちとともに行う共同行為である。これだけでも我々は、いくらか挫折や断念から遠ざけられる。(……)で…

【読書ノート】オストロム『コモンズのガバナンス』転読・掬読・問読(第1回)まで

イントロ コモンズのガバナンス―人びとの協働と制度の進化―作者:エリノア・オストロム晃洋書房Amazon 授業準備でいろいろと本を読まないとならない。私は遅読なので、なんでもかんでも読んでるわけにいかないから、読むべき本を効率的に絞り込んでいくしかな…

【読書ノート】『地球と存在の哲学』第2章

地球と存在の哲学―環境倫理を越えて (ちくま新書)作者:オギュスタン ベルク筑摩書房Amazon 第2章 母型の郷愁 1 近代性の拒否 西洋にとっては、近代というのは時間的な現象だ。つまり、それまでは前近代だったけど、ある時点から近代に移行したのだ、という…

【読書ノート】『地球と存在の哲学』序論、第1章

地球と存在の哲学―環境倫理を越えて (ちくま新書)作者:オギュスタン ベルク筑摩書房Amazon ベルクはもう読まない! というつもりでいたけれど、やっぱりもうちょっと読まないとなあという気持ちになった。 風土論によって気候変動みたいな環境問題が解決され…

【読書ノート】『グリーン経済学』22章~ラスト

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon 22 グリーンプラネット 気候変動みたいなグローバルな外部性の解決に取り組むには、主要国の協調行動が不可欠だ。だ…

【読書ノート】『グリーン経済学』19章~21章

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon 19 グリーン世界における個人の倫理 アダム・スミスのいう「見えざる手」がうまく働いていれば、私たち一般市民は倫…

【読書ノート】『グリーン経済学』14章~18章

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon 14章 グリーン政治の実践 経済発展は環境に影響を与えるようだ。クズネッツ曲線というのがある。これは、経済発展の…

【読書ノート】『グリーン経済学』10章~13章

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon 10章 エクソ文明の魅力 地球の環境がメチャクチャになっても、よその惑星に移住すればいいじゃないか、と考える人は…

【読書ノート】『グリーン経済学』8章~9章

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon 8 グリーン経済学と持続可能性の概念 主流派経済学(新古典派経済学)による環境問題への考え方はこういうものだ。ま…

【読書ノート】『グリーン経済学』1章~7章

グリーン経済学――つながってるけど、混み合いすぎで、対立ばかりの世界を解決する環境思考作者:ウィリアム・ノードハウスみすず書房Amazon ノードハウスの本は『気候カジノ』につづいて2冊目。 評判がいいので読み始めてみて、今のところ18章まで読み終わっ…

【研究ノート】環境配慮行動関連の論文あれこれ

環境配慮行動関連の論文はどれも似たり寄ったりでつまんない、と思ってたからあまり読んでなかったけれど、改めて調べてみるとこの10年くらいで新しい展開を見せているみたいだ。最近勉強し直している風土論とも絡んできそうな気もするので、面白かった論文…

【読書ノート】『風土学はなぜ何のために』5章~ラスト

風土学はなぜ 何のために作者:オギュスタン・ベルク関西大学出版部Amazon 第五章 風土学の二つの時代 やがて私(ベルク)は地理学から存在論の方に興味が移っていった。和辻が言うように、風土とは「人間存在の構造契機」なのであり、風土について論じていく…

【読書ノート】『風土学はなぜ何のために』4章

風土学はなぜ 何のために作者:オギュスタン・ベルク関西大学出版部Amazon 第四章 通態化 デカルトは、「我思う、ゆえに我あり」と言ったとか言わなかったとか。いや、言ったのだ。言わなかったにしても、『方法序説』には確かにそう書いてある。 我思う、ゆ…

【読書ノート】『風土学はなぜ何のために』3章

風土学はなぜ 何のために作者:オギュスタン・ベルク関西大学出版部Amazon 第3章 風土性 わたし(ベルク)は昔、和辻哲郎の『風土』という本が何を言わんとしているのか、よくわからなかった。とくにわからなかったのは次のようなくだりだ。 この書のめざすと…

【研究ノート】計画的行動理論の批判的検討2

前に書いた記事の後日談的なものを書いておく。 odmy.hatenablog.com 調べてみたら、計画的行動理論って海外ではかなりボコボコに批判されてるみたい。今から10年近く前に、「計画的行動理論はそろそろ引退した方がいいよ(Time to retire the theory of pla…

【読書ノート】『風土学はなぜ何のために』1~2章

風土学はなぜ 何のために作者:オギュスタン・ベルク関西大学出版部Amazon 何年か前に読んだ本の再読。 断続的だけどベルクの風土論はずっと勉強し続けていて、もう20年近くになる。でも、いまだによくわかった気がしていない。 たぶん、環境問題を解決する上…

【研究ノート】風土論の使い道

前回もちょろっと風土論の使い道について書いてみたけれど、もうちょいと考えてみたい。 使い道1:地域づくり 地域づくり系の文献を読んでいると、地域づくりをするにはまず地域のことを知ることだ、と言う話がよく出てくる。それで、住民たちで町歩きをした…

【用語集】風土論

風土論というのがあって、学生時代から勉強してきているのだけど、いまだにうまく理解できている感じがしない。数千字でまとめられるものではないけれど、なんとかエッセンスだけでもまとめてみよう。 ザックリ言うと、風土論とは人間と環境の関係性を現象学…

【研究ノート】仏教的自然観にもとづく環境心理学の構想

環境意識に関する調査をすることになって、具体的に何しようかあれこれ考えているのだけど、うまくまとまらない。最終的には、新しい環境教育のあり方を提案するというところまでつなげる予定で、その準備作業としての調査という位置づけだ。 それで環境心理…

【用語集】SDGs、MDGs

SDGsに対する人々の関心は? 2023年現在、「SDGs」という言葉はまだちらほら耳にする。もしかしたらみんなもう飽きて使わなくなってるんじゃないかなあ、とも思う。わたしはテレビを観ないし人ともあまりしゃべらないので世間の常識がよくわかってない。でも…

【読書ノート】Philosophical Foundations of Climate Change Policy第6章

Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon 第6章 Positive Social Time Preference(正の社会的時間選好) イントロ 気候変動の問題を考えるときに、「将来世代の厚生水準を高…

【読書ノート】Philosophical Foundations of Climate Change Policy第5章

Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon 第5章_The Social Cost of Carbon(炭素の社会的コスト) イントロ 炭素税をかけるのは、費用便益分析をするのと同じ事なのだろうか…

【読書ノート】 Philosophical Foundations of Climate Change Policy第4章

Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon 第4章 The Case for Carbon Pricing(カーボンプライシングの課題) イントロ 前章で議論したように、気候変動を世代間正義の問題と…

【読書ノート】 Philosophical Foundations of Climate Change Policy第3章

Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon 第3章 Intergenerational Justice(世代間倫理) イントロ 本章と次章における私の目的は、気候変動問題に対する帰結主義的アプロー…

【読書ノート】 Philosophical Foundations of Climate Change Policy第2章

Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon 第2章 Climate Change and Growth(気候変動と成長) イントロ 哲学者たちは、気候変動を「世代間正義」の問題と分類しがちだ。そし…

【読書ノート】Philosophical Foundations of Climate Change 第1章

第1章 False Starts (間違った出発点) Philosophical Foundations of Climate Change Policy (English Edition)作者:Heath, JosephOxford University PressAmazon イントロ 「山のように考えよ」というレオポルドの言葉は有名だ。しかし、そうした環境哲学…