【雑文】AIに仕事を奪われないか心配なので「心配ないよ」と自分を慰める回

Googleニュースを使っていると、「あなたへのおすすめ」で、ChatGPTとかBingとか、あと、AIに仕事を奪われるとか奪われないとかの記事をよくおすすめされる。そうか、私はそういうことに興味があるのか。不安を押し隠していても、Googleアルゴリズム様にはお見通しということか。

AIに仕事を奪われて失業者が町にあふれかえるであろうみたいな予言は、以前ほどは聞かなくなったけれど、それでもまだちらほら聞こえる。たとえば「こんな上手なイラストをAIが描けるのならイラストレーターは廃業するしかない」みたいな話だ。

ただ、本当にそうなのかなあ、とは思う。だって、AIが描くイラストって明らかにパッとしないし。「AIが描いたにしてはすごい!」のだとしても、そういうイラストを金出して買うかどうかはまた別の話だ。AIがつくったマンガや小説にしても、「AIにしてはすごい!」という風に、「AIにしては」というハンデをつけてあげないと驚くことはできない。「いや、これからどんどん改善されていって、人間なんてあっという間に追い抜かれますよ」と考える人もいるだろうけれど、今の時点でパッとしないものが、何をどうしたらもっとパッとしたものになるのか、その筋道を論理的に語ってくれる人は皆無だと思う。

たぶん今のAIは、70点くらいの仕事をするのが得意なんじゃないだろうか。自動運転でいうなら、下道を走らすのは危なっかしいからダメだけど、高速だったらまあいいんじゃない? というレベルだ。「70点でもすごいじゃないか!」というのはわかる。でも、それで仕事になるかどうかといったら話は別だ。「すみません、お客さん。わたし、高速なら走れるんですけど、下道は無理です。勘弁してください」なんてタクシー運転手はどう考えてもプロとして通用しない。高速だろうと下道だろうとスイスイ走れるのがプロだ。

一般に、プロに要求されるのは70点ではなく、95点くらいなんじゃないだろうか。つまり、素人が見てもどこに問題があるか全くわからないような極めて軽微なミスが1箇所か2箇所あるくらいのレベルだ。ほぼ完璧でないと、普通はプロを名乗れないものだと思う。その一方で、70点というのは、素人が見ても明らかなミスがちらほら見られるものだ。ほっとけば確実にクレームがくる。AIにできる仕事はその程度のレベルだと思う。

私は研究者から実務翻訳者に転職しようと、翻訳の勉強を日々進めている。実務翻訳もまた、AIに仕事が奪われるのではないかと昔から言われていた職業だ。ただ、今のところそんな傾向はみられなくて、ジャンルによってはむしろ翻訳者の需要が増えている。翻訳講座みたいなのも受けているけれど、DeepL翻訳が登場して以降も、トライアル(一種の試験)の合格者数はほとんど変わっていない。

プロの訳例と比べればわかるけれど、DeepLの訳文は、商品としてはほぼ売り物にならない。専門用語を日常語で訳してしまったり、接続詞の使い方がへんだったり、強調すべき点がずれていたり、読者にとって必要な補足情報を示してなかったりする。ごくたまに修正の余地のない訳文が出ることもあるけれど、たいていはかなり修正を加えないとならない。その上、難しい原文だとすぐ諦めてしまう癖があるみたいで、訳漏れが頻出する。やっぱり70点、へたしたら60点だ。だけど、プロとして通用するためには、たっぷり時間を使えるトライアルなら95点くらいはとれないと話にならないだろう。下訳でDeepLを使うことはあるけれど、結局はほぼ全文書き直すことになる。少なくとも今のところ、AIに翻訳の仕事を奪われるなんて気配はまったく感じられない。敵と呼ぶにはあまりに雑魚すぎるからだ。

「いや、その雑魚がこれから急成長するんですよ」と言われるかもしれない。でも、そうかなあ? だって、私がDeepLを使い始めてからもう3年近く経ってるけど、3年前と比べて、ほとんど性能変わってないよ? 相変わらず訳漏れはひどいし、ときどき2ちゃんのアスキーアートみたいなのを出力することもあるし。人間なら3年あれば70点を95点に持って行くこともできるけれど、AIは今も順調に70点のままだ。その傾向を将来に向けて外挿すれば、今後も順調に70点をキープすると考えた方が妥当ではないだろうか? ChatGTPとか、イラストを描けるAIとかを見てみても、やっぱりその70点の壁で止まってる感じがする。で、その70点が、これから時間をかければ80点、90点、さらには100点になるだろう、という予測は私には立てられない。少なくとも、そんな風に点数が順調に上がっていくという明快な理屈にお目にかかったことはない(データを増やしたりディープラーニングの階層数を増やせばすごいことになるんだ! という雑な話は聞くけど、理屈になってないと思う)。

というわけで、AIはやはりただの道具だと考えた方がいいと思う。もちろん、道具が人間の仕事を奪うことは確かにある。電話の交換手やタイピストの仕事はもう無くなってしまった。ここらへんを考えるには、そもそもその道具がいったい仕事のどういう面を代替しようとするものなのかを整理する必要があると思う。めんどくさい。でも乗りかかった舟なので、考えられるところまで考えてみようか。

AIがやっているのは、基本的に「分類」と「予測」だ。たとえば、画像認識は「分類」をやっているわけだし、チャットボットは適切な会話文の「予測」をやっているわけだ。

一方、電話の交換手やタイピストがやっているのは「分類」や「予測」ではなく、決められたルーチンに従って作業をこなすことだ。たとえば、タイピストは紙で文書をわたされたら、そこに書かれていることをそのままタイプしていく。文書の内容を要約(分類)する必要もないし、その文書内容のつづきを考える(予測)する必要もない。見た文書をそのままタイプするだけだ。だから、労働者各自がタイプライターなりワープロなりを持つようになれば、そうやってわざわざ「紙の文書をタイプし直す」という作業がなくなるので、タイピストの仕事も必要なくなる。交換手も同じような理屈でなくなったのだと思う(詳しい事情は知らない)。

もしAIで人の仕事がなくなるとしたら、その仕事は「分類」や「予測」だけで成り立っている仕事なのだと思う。しかし、「分類」や「予測」だけで成り立っている仕事は案外少ないのではないか。

たとえば翻訳であれば、「対象読者にとっていかに読みやすい文章にするか」「執筆者の意図をどこまで正確に読み取れるか」といった要素も必要になってくる。こうした要素は、「分類」や「予測」とは異なる能力を必要とするものだ(論理力や共感能力が関わっているかもしれない)。イラストやマンガもそうで、「受け手に面白がってもらえる」とか「受け手の期待を良い意味で裏切る」といった要素が必要になる。これらもまた、「分類」や「予測」では対処しきれないと思う。

「人々の好みを予測すれば、受ける作品になるのでは?」という考え方もあるだろう。たとえば、「人々は異世界転生モノが好きだから、その路線で作品をつくれば売れるだろう」という風に。で、実際にそういう作品は多少売れるかもしれない。でも、大ヒットというのはありえないと思うし、ファンもとくにつかないと思う。大ヒットしたり、売れなくても熱心なファンがついてくれる作品というのは、どこかにこれまでの作品にない新しさがあるものだ。AIのやる「予測」は、所詮は回帰分析と同じで、過去を将来に外挿しているだけなので、そこからは「新しさ」を生むことができない。

AIがシュールな絵を描いたりするのを指して「新しい」「独自だ」という人もいるけれど、それは、AIに能力があるのではなく、そういう作品に面白さを見つけることのできる受け手側の方に能力があるのだと思う。で、それはマイナーな能力なので、ほとんどの人は持っていない。AIの描いたシュールな絵が新しいったって、ほとんどの人には理解不能なノイズだろう。

逆に、AIがまともな絵を描いても、それはせいぜい70点の出来にとどまる。今は「AIなのにこんなにまともな絵が描けるなんて!」という驚きがあるから、その分、プレミアがついて、評価されることもあるのだと思う。でも、そのプレミアはあっという間に陳腐化するだろう。あとには、どうってことない70点の絵しか描けない、成長しないポンコツAIが残されるだけだ。

というわけで、ほとんどの人は、AIに仕事を奪われるなんて心配はしなくていいのではないかと思う。「予測」と「分類」だけで成り立っている仕事は危ないかもしれない。だけど、そういう仕事は割と少ないのではないだろうか? 

私は予言者でもAIの専門家でもないので、以上はあくまで自分を慰めるための独自の現状分析です。まあ、将来がどうなるかなんて、AIだけでなく、人間にだって「予測」はできない。せいぜい今の自分を慰めて、荒野だかお花畑だかわかんない方向にとぼとぼ歩いて行くだけの私だよ。