【雑文】リスニングできたら時短になるのになあ

何かとやることがあって本を読む暇がない。本を読んでても、「こんなことやってる場合なんだろうかもっと役に立つことしないと時間がもったいないよ時間が」という前のめりな思考モードになっていて句読点も付け忘れ結局何も手に着かない感じだ。

世のビジネスパースンたちが自己啓発書やビジネス書に手を出すようになるのもここらへんの心理が関与しているにちがいない。電車の中でひろゆきを読むビジネスパースンは見たことがあるけれど、ヘーゲルを読むビジネスパースンは見たことない。きっと、そんなタイムコンシューミングな本を読んでると精神が絶対知になってワヤになって仕事が手に着かなくなるのを心配しているのだろう。「1%の努力で成果を出そう。ヘーゲルなんか読んだって120%の努力に対してリターンは-30%だから大赤字だ」。そういう発想だと、読める本がひろゆきオンリーになるのもわからなくはない。

時間は節約したいけど、でももっと読みたい本を読みたい。自己啓発書やらビジネス書ばかり読んでたら弁証法がストップして絶対知にたどり着けなくてさみしい。そんな人はオーディオブックに頼るといいと思う。移動しながら、昼飯食べながら、ストレッチしながら、耳穴掃除しながら、床につきながら。隙間時間でもかき集めれば1週間くらいで小説1冊読めてしまう素敵なシステムだ。

ただ問題は、日本のオーディオブック市場は自己啓発書とビジネス書がやたらと多い。ひろゆきから逃れるためにオーディオブックに飛び込んだのに、そこでもひろゆきが待ってて「やあ、また会いましたね」と1%の努力を勧められるのだ。だから日本を逃れ、海外に逃げると良いと思う。つまり、洋書のオーディオブックを使えば良い。

洋書のオーディオブックは異様に充実している。なんと驚くべきことに、ヘーゲルの『精神現象学』まで入ってる(抄録みたいだけど)。『精神現象学』を耳から聞いて理解することができる人がこの世界に存在するのかどうかは疑わしいけれど、洋書にまで手を伸ばせば選択肢はグッと広がる。

でも洋書は日本語で書かれてない。当たり前だ。だけどこれは、英語がわからない人には大きなハードルになる。「日本が嫌なら海外に逃げればいいじゃない」と言うのは簡単だけど、ハードルは自分でなんとかしなければならない。だからリスニングをどうにかするのだ。しかしどうにかするったって、リスニングをどうにかするのだけでもたいへんだ。

英語は時短になる。

しかし英語学習には時間がかかる。

このジレンマをどう解決するか? まあ、勉強するしかないのだけど…。人工知能のおかげで英語を勉強しなくてもいい時代が来るみたいなことを言う人はいるけれど、今のところその目処はぜんぜん立ってないように思う。自己啓発書とかビジネス書みたいな簡単な内容だったら、機械翻訳でもまあまあ理解できる。だけど、ちょっとややこしい内容になるとすぐに機械翻訳では通用しなくなる(最近読んでるヒースの気候変動本は、機械翻訳だとほぼ理解できない)。人工知能様がなんとかしてくれるかも、と甘い期待を抱くよりも、さっさと勉強して英語を身につけてしまった方がいい。

じゃあどうやって勉強するか? へたに英語教材を買い集めるよりも、さっさと本丸に切り込んでしまえばいい。つまり、聴きたいオーディオブックを聴けばいい。探せば初学者にも聞きやすい本はあるし、再生用アプリにはスピード調整の機能があるから、0.8倍とか0.7倍の速さで聞けばそれなりに聞き取れる。易しいところから始めて少しずつ下剋上していけばいい。

オーディオブック一歩手前ということでポッドキャストもいいと思う。本と違って、ぺちゃくちゃしゃべっている人たちの雰囲気でなんとなく何言ってるかわかるというメリットがある(本は一度振り落とされると二度と復活できない)。

ポッドキャストで最近聞いてるのは、BBCの歴史ドキュメンタリー番組。エピソードが全部で100あって、大英博物館のコレクションを毎回1つずつ紹介しながら、歴史上のあれこれを教えてくれる。聞きやすいし、探すと毎回の番組のスクリプトも見つかるので、文字を追いながら聞くことができてリスニングのお勉強に役立つ

www.bbc.co.uk

『ヤバい経済学』の共著者のダブナーがやってるFreakonomicsという番組も面白そうだけど、個人的にはまだちょっと聞き取るのが難しい感じ。表現がくだけてるからかな? こないだちょっと聞いてみたら、大英博物館を含め、博物館の収蔵物はかつての植民地からの盗品ばかりだよ、みたいなことを言っていて面白かった。これを聴いたあとでさっきのBBCの番組を聴くとなかなか趣深いものがある。

https://freakonomics.com/podcast-tag/stealing-art-is-easy-giving-it-back-is-hardfreakonomics.com

(↑なぜか埋め込みできない)

The New Yorkerのポッドキャストも面白い。かつてThe New Yorkerに掲載された短編小説を題材に、別の作家がああだこうだ言ったあと、その作品をぜんぶ朗読してくれる。村上春樹がやたら人気でこれまで3回くらい取り上げられている。日本人だと他には小川洋子ベケットとかナボコフとかカルヴィーノとかも取り上げられているけれど、さすがに聞き取るのはキツい。テキストを入手して再チャレンジしようかなあ。

www.newyorker.com

あと、Philosophy for our timesも楽しい。部分部分しか聞き取れなくて、論理がうまく辿れないのだけど、大の大人が哲学を真剣に議論してる雰囲気が楽しい。過去の哲学者が何を考えていたかを解説するいわゆる「哲学学」じゃなくて、「意識とはなにか」とか「感情と理性、どっちが偉い?」みたいなテーマで議論が交わされる。討論者は哲学者だけじゃなくて、科学者とか小説家とかが入ることもある。哲学者たちの中にはしゃべり方がかなり独特な人がいて、ひたすら「you know」を連発する人(マルクス・ガブリエル)とか、聞いたこともないようなどぎついイタリア語訛りのおっちゃんとか、全体的に濃い。濃いことも含めて楽しい。こういう闇鍋みたいな雰囲気こそが哲学だと思う。前に日本の哲学の学会に参加したことあったけど、みんなWord資料をぶつぶつ読み上げてるだけで、「こんなの哲学じゃないやい!」と思ったのを覚えている。

iai.tv

私自身は英語教材で勉強するのがとても苦手だ。自分が興味の無い文章を読まされるのが苦痛だから。だから、少々難しくても、自分が読みたいもの、聴きたいもので勉強するのが一番いいなあと思う。時短じゃないかもしれないけれど、ストレスはたまらないから。