【読書ノート】オストロム『コモンズのガバナンス』転読・掬読・問読(第1回)まで

イントロ

授業準備でいろいろと本を読まないとならない。私は遅読なので、なんでもかんでも読んでるわけにいかないから、読むべき本を効率的に絞り込んでいくしかない。

せっかくなので、もう少し方法論という奴を取り入れて読んでいきたい。例の『独学大全』に出てくる本の読み方を実践してみるのだ。

今回扱う本はオストロムの『コモンズのガバナンス』。「コモンズの悲劇は現実には必ずしも発生しないよ」というのを実証的に明らかにした本らしい。有名な本で、私も他の本で引用されているのを何度も見たけど、おっくうなので読んだふりして読んでなかった。読もう。

読み方

読み方の手順としては、独学大全に出てくる次の方法を使いたい。

  • 転読
    • やり方:本をぱらぱらめくる。1分以内のすべてのページをめくる。
    • 効能:『独学大全』ではあんまり明確に述べられてない。たぶん、読むことのハードルを思いっきり下げる、というのが効能なんじゃないかな。積ん読対策ということか。繰り返し転読するべきである、とも書かれている。
  • 掬読(スキミング
    • やり方:読むべき所だけ読む。つまり、序論や第1パラグラフに載ってる目的や問いを読んで、それに対応する結論が書いてある最終パラグラフのあたりを読む。
      • 『独学大全』では触れられてないけれど、「各段落の最初の1行だけ読む」というのも効果的だと思う(パラグラフライティングで書かれた文章は、段落の最初の1行にその段落の概要が述べられている)
      • あと、目次を読む、というのもよくあるやり方だけど、これも『独学大全』で紹介されてないな。目次をみて、目的と結論がどこに書かれてるかを探す、という風にやるとよさそう。 → (追記)「目次マトリクス」という方法のところでばっちり紹介されてました
      • それから、翻訳本の場合は後書きを見るというのも使える技だ。
        • ただ、今回のオストロム本の訳者あとがきはあまり役に立たない。お世話になった人たちへのサンキューを書き連ねているだけだから。
    • 効能:最小限の時間でテキストの概要をつかむ。読むことのハードルを下げるという効能もある。
  • 問読
    • やり方:まず、文献の章見出しを拾い出して、それを問いの形に書き換える。次に、その問いに対応した答えを本の中に探す。
    • 効能:簡単に本の要約ができる。問いの数を増減させれば、要約の長さや密度を自由に変えられる。理解が深まるし、記憶にも残りやすい。

あと、段落ごとに要約する「段落要約」とか、線を引っ張ってあとでそこについてコメントを書く「刻読」とかは、私がいつもこのブログでやってることだ。今回は問読までやろう。あと、問読は複数回やると良いと思う。今回は1回目ということ。

転読

  • 1分間、ページをぱらぱらめくってみてわかったこと
    • ゲーム理論っぽい図が出てくる。普通の書き方とちょっとちがう気がする。
    • 引用文献リストがやたら長い。
    • 途中で実証分析みたいのやってるなあ。フィールド調査の結果みたいなのが出てくる。
    • 図表はいろいろ出てくるけど、いかにも学者っぽい書き方なので読みにくそう。
      • 一般人が楽しんで読むような本じゃなさそうだ。

掬読

  • 目的
    • 共的資源のガバナンスや管理のために自己組織化できる場合もあれば、できない場合もある。それがなぜなのかを明らかにする。 p29
  • 結論
    • 現在の集合行為理論は、次の3つの問題を抱えている p236-237
      • 制度変化の漸進的で内発的な性質を考慮すること
      • 内部変数が集合的なルールの供給の水準にどのように影響するかを分析するための、外部の政治体制の特徴を考慮すること
      • 情報と取引費用を考慮すること
    • 本書ではこれに代わり、次のような変数を考慮した枠組みを提案する p238-
      • 制度選択に影響を及ぼす変数
        • 制度選択の便益についての判断に影響する状況変数
        • 現行のルールを変更する費用の判断に影響する状況変数
          • 監視費用と実効化費用の判断に影響する状況変数
        • 共有規範と割引率に影響する状況変数
    • (結論が6章全体に散らばっているので、探すのが大変。本書全体を読むよりも、まず6章を先に読んだ方がいいのかもなあ。)

問読(1回目)

  • 章タイトルを問いに変換して答えを書く
    • 第1章 コモンズを見る視点
      • 問い:コモンズをどんな視点からみるのか?
      • 答え:共的資源のガバナンスや管理のために自己組織化ができる場合とできない場合がある、という視点からコモンズを見る p29
    • 第2章 共的視点をめぐる自己組織化と自治に関する制度分析
      • 問い:共的資源をめぐって人々が自己組織化や自治をしているとき、それを支えている制度をどう分析するのか?
      • 答え:共的資源問題は、「占用問題」と「供給問題」の2つに分けて考える p55
        • 占用に関する重要な問題は、固定的で時間独立的な資源をいかに配分してレント消失を回避し、不確実性や権利の割り当てに関する対立を少なくするか、といったものである。 p56

        • 共的資源をめぐって人々が直面する供給サイドの問題は、資源システムの構築およびその維持管理に関するものである。 p57

        • 需要サイドの供給問題の1つに、資源そのものに悪影響を及ぼさないための採取率の規制がある。 p58

    • 第3章 長期にわたって持続的で自律的な共的資源の管理
      • 問い:どうすれば長期にわたって持続的で自律的に共的資源を管理できるのか?
      • 答え:制度に関して、次の8つの設計原理が必要 p106
        • 明確な境界
        • 地域的な条件と調和したルール
        • 集合的選択への参画
        • 監視
        • 段階的な制裁
        • 紛争解決メカニズム
        • 組織化における最低限の権利の承認
        • 入れ子状の組織(規模の大きな共的資源の場合に必要)
    • 第4章 制度変化の分析
      • 問い:制度変化をどういう風に分析するのか?
      • 答え:
        • すべての再帰的な状況が制度的ルールによって形作られていると仮定することである。 p166

        • すべての再帰的な状況が、あるルールによって特徴づけられていると仮定すれば、制度供給の概念は、新しい制度の「起源」と呼べるものと、既存の制度の変化と呼べるものの両方を含むように拡張できる。 p167

        • 基盤的選択と集合的選択の過程はともに、さまざまな状況における行為主体の行動に影響するルールを生み出すのである。 p168

        • 基盤的選択の段階では、誰が資格を持つかを定め、将来の集合的選択の決定方法を定めた現行のルールを変更すべきかどうかを、人びとが決定する。 p168

        • 同様に、集合的選択の段階では、誰が資格を持つかを定め、将来の運用上の選択について定めた現行のルールを変更するかどうかを、人びとが決定する。 p168

        • どちらの過程においても、現行のルールと変更後のルールのもとでのフローの純便益の期待値を、人びとは比較する。したがって、制度変化を説明するためには、ルール変更が提案される場に参加している人びとが、現行のルールと変更後のルールにおける純便益をどのように捉え、評価するかを検討する必要がある。 p168-169

    • 第5章 制度の失敗および脆弱性の分析
      • 問い:失敗したり脆弱性を持っていたりする制度はどういう特徴を持つのか?
      • 答え:第3章で挙げたような設計原理を持っていない
    • 第6章 自律的な共的資源管理の分析枠組み
      • 問い:自律的な共的資源管理を分析するのにどんな枠組みを使うのか?
      • 答え:(掬読で明らかにした結論と同じ。以下、再掲)
        • 本書では次のような変数を考慮した枠組みを提案する p238-
          • 制度選択に影響を及ぼす変数
            • 制度選択の便益についての判断に影響する状況変数
            • 現行のルールを変更する費用の判断に影響する状況変数
              • 監視費用と実効化費用の判断に影響する状況変数
            • 共有規範と割引率に影響する状況変数

今後

なるほど、なかなか良い感じの読み方だな。オストロムの本がどういう方向性で展開していくのかだいたい見えてきた。

ただ、6章はこれだけだとよくわかんないな。本書全体に言えることだけど、「ここが本章の結論です」という風にきちんと明示していない。普通は章の最後の節が結論になっているものだけど、オストロムの場合、そういう書き方をしていないのだ(勘弁してくれ)。6章はとくにその傾向が強くて、結局、6章全部を読まないと何が結論なのかよくわからない気がする。

あと、具体的な事例をひとつかふたつちゃんと読まないとイメージが湧かないなあ。

というわけで、第2回の問読では次の問いに答えていきたい。

  1. 6章は結局どういう結論なの?
  2. 具体的な事例を教えて?

全部読まなくても、こうやって問読を繰り返していけば自分に必要な知識は手に入るわけだ。なかなかいい。たぶん、このオストロムの本ってまともに読もうとしたら1ヶ月くらいかかっちゃうと思う。問読なら1週間くらいでいけるのではないかな?