【雑文】数式の出てくる本の読み方ver.1

高校のころは完全に理系で、一番好きな科目は物理だった。当時から私は暗記が苦手だったので、公式は覚えずにそのつど導き出してた気がする。暗記に頼らないかわりに、その公式が何を意味しているかきちんとイメージできるようにするのに時間をかけていた。たとえばドップラー効果の公式なら、音波がぐにゃっと縮んだり、ビヨーンと伸びたりするイメージ(観測者も動く場合なら、その音波に向かって走っていって、音波の壁を次々突き破っていくようなイメージ)。そのイメージがつかめると、物理は楽だ。あとはそのイメージを数式に落とし込めばいいだけなのだから。

ただ、大学に入ると徐々に理系コースから外れていって、最終的には社会科学系の研究室に入ってしまった。分析で統計学は使うけれど、「統計学はただのツール」というのが一般的な教科書の考え方なので1、勉強してもぜんぜんイメージがつかめないし、おもしろくない。後になって、そのイメージの部分をきちんと説明した本がいくつか出てきたけれど、当時はとにかく、図書館に行ってもつまんない教科書ばかりで、次第に数式を読むのが嫌になってしまった。

ただ、最近はやっぱり数式を使った本が読めないといけないと思うようになった。読みたい本や論文があっても難しい数式があるから断念、というパターンが多いので。で、たぶん自然言語だけ使っててもうまく考えられない問題ってたくさんあるのだ。数式を使った本が読めないと、自分がこれ以上先に進めなくなってしまうように思う。「答えのない問題を考え続けることこそが大事なのだよ」と開き直ることもできるけど、哲学の人たちが言うような「答えがない問題」って、実は数理的なアプローチをとると案外普通に解けてしまったりするものだと思う(心のあるロボットの研究だって進められているし)。なので、開き直る度胸がないのなら、数式が読めるように素直に勉強した方がいいだろう。

とはいえ、理系だった時代からずいぶんブランクがあるので、つまんないところでつまづいてしまう。数式の出てくる本をどう読んで勉強すればいいのか、今の段階の考え方をまとめていこう。「ver.1」とあるのは、たぶんこれからどんどん変わってくるから。というか、どんどん変わっていかないとまずいと思うよ。飽きずに来年まで勉強が続いてたら、そのときver.2を書けばいい。

難しい問題を簡単な問題に作りかえる

たとえば、3次元の問題を解けなければ2次元に、2次元でも難しければ1次元に問題を作り替えてしまうというようなこと。簡単な問題に作り替えてみて、それが解ければ、あとは条件を追加してもう少し難度を上げてみてから解けばいい。

これは理系の問題を解くときに限らず、どんな局面でも使える考え方だと思う。たとえば、「ダイエットをする」という問題は次元数がそこそこ多い。太っていることの原因には「食事の量」「運動の量」「ストレス」「体質」「遺伝」などなど、いろいろあるからだ。だから、まずは「ストレス」だけに着目して、ストレスのたまらない生活を心がける。ストレスがある程度クリアできたら、次は運動量を増やしてみる。運動することによってストレスが増えることもありそうだけど、運動でストレス解消になって、結果としてストレス相殺ということにもなるかもしれない。そして、次は一番難しそうな「食事の量」をなんとかしてみる。でもここまで来ると、運動が増えたことで基礎代謝が増えてるので、食事の量を減らすという次元の問題は自然消滅してしまっているかもしれない。

「難しい問題をまずは簡単な問題に分解してみる」というのは、以下の本にも書いてあった気がする(あまり覚えてないけど)。

イメージをする、暗記に頼らない

何でもかんでもイメージできるとは限らないけど、できる限りやってみる。数学だって、むりやりに図に落とし込む努力をつづければ、イメージらしきものがつくれるかもしれない。前に位相数学の入門書を読んでたときは、ある境界線に無限に近づいていく点の軌跡をひたすらテンテンテンテンテンテン……と書いてた記憶がある。

この「イメージをする、暗記に頼らない」というやり方を徹底してやっているのが「直観的方法」シリーズだ。いつもお世話になってます。「プログラミングのための」シリーズも同じようなコンセプトだ。こちらも、いつもお世話になってます。こういう本がたくさん出てほしいよ。

こまめに復習

理系の本は基本的にすべて積み重ねなので、とにかくこまめに復習することが大事。人文系や社会科学系だと、わかんないところや忘れたところがあっても、本のテーマやモチーフさえつかんでおけば、なんとなく読み進めることができる。使われる用語も日常語と地続きなことが多いので。でも、そのやり方は理系の場合だと通用しない。

学校の授業で勉強するのなら、定期的にテストがあるから、半強制的に復習することができる。でも、独学だと復習は意識的にやらないとならない。昨日分かった数式だって、今日読み返したら、思い返すのにしばらく時間がかかると思う。そこをめんどくさがって復習を怠ると、どんどん「借金」がたまっていって、首が回らなくなる。それで、数十ページくらい読んだ段階で苦痛になってきて、教科書を押し入れの中にしまい込んでしまうことになるのだ。借金問題を解決するには腎臓を売るよりもまず復習だ。

今はわからなくても、一晩寝たらわかることもある

「え、この著者バカじゃないの? 何言ってるのかぜんぜんわかんないんですけど。この人の言語感覚どうなってるの?」と言いたくなるような箇所があっても、一晩寝て読み直すとスルッと理解できてしまうことはよくある。たぶん、脳の中の小さい人たちがなんやかんややっといてくれたのだろう。何時間もうんうんうなってストレス抱え込むよりも、さっさと寝てしまえ。小さい人たちに任せよ。

手を動かす

紙とペンを用意せよ。数式はちゃんと書き写しながら追いかけよ。練習問題も飛ばさずにちゃんと解けよ。文系の本だと「1日1冊読む」みたいなこともできるけれど、理系の本はそういう風にできてない。かったるくても、手を動かさないと、体が覚えてくれない。体が覚えてくれないと、数式を読みこなすことはできない。

独り言を駆使する

著者が何を言いたいのかよくわからないところに突き当たると、「この記号が意味してるのはこういうことで、ここではこう仮定してるから、それをガチャガチャ計算するとこうなる、ということですね」みたいにぶつぶつ独り言を言ってることがある。すると、ちょっとだけ理解が進みやすくなる。まあ、これは数式に限らず、なんでもそうかな。脳がキャパオーバーになってるので、いったん「音声」という形で外部に出してるということだと思う。

それを言うならこのブログも完全に独り言だな。というか、もともとそういうつもりで始めたんだった。別に人々に有益な情報を提供しようとか社会に対して発言しようとかは考えてません。独り言です。


  1. 前に、計量研究をやっている人に、「統計の勉強つまんないんですけど、どうしたらいいんですか?」と聞いたら、「いや、統計はツールだから、つまんないとか楽しいとかないよ」というつまんない返事が来てがっかりした。