SDGsに対する人々の関心は?
2023年現在、「SDGs」という言葉はまだちらほら耳にする。もしかしたらみんなもう飽きて使わなくなってるんじゃないかなあ、とも思う。わたしはテレビを観ないし人ともあまりしゃべらないので世間の常識がよくわかってない。でも、とりあえず「SDGs」って言っとけば「ああ、あれのことね!」と話が通じるような雰囲気はあるからまだ死語ではないのだろう。
SDGsの基本情報を箇条書きでまとめておこう1。とくに目新しい情報もないので箇条書きで十分だ。
- SDGs: 持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
- 2015年9月、国連で193カ国の首脳の合意のもとに採択された。
- 人類に破局的状況をもたらしかねない慢性的危機に対して、2030年という年限を切り、17のゴールと169のターゲット、232の指標を示して、「持続可能な社会・経済・環境」に移行することによって、これを克服することを目的とする。
- 国連加盟国を法的に縛るものではない(守らなくても罰則はない)。
- 実現にあたっては「誰一人取り残さない」ことが謳われている。
さて、これを見ればわかるように、ゴールもターゲットもめちゃくちゃに多い。とても覚えてられないし、ここに引用する気にもなれない。Wikipediaでも見ておけばいいと思う。まあ、貧困をなくそうとか地球環境を大切にとかジェンダーをあれこれとか、そんなような内容だ。
サンプル概要はこんな感じ。ネット調査だ。別に朝日新聞の読者にだけ訊いたとかじゃないので、思想的なバイアスはあまり心配しないでいいと思う。
- 調査対象:クロス・マーケティング社のリサーチパネルに登録している全国15〜69歳の男女
- ※2020年の国勢調査の人口構成比に基づき、『エリア(9区分)×性(2区分)×年代(6区分)=108区分』ごとに標本を割り付けた。
- 調査日:2023年2月10~13日
- 回収数:5000
この調査によると、言葉自体は9割近くの人に知られているようだ。コロナ禍のあたりから急に知名度が上昇している(なんで?)。ところが、SDGsに関心がある人は合計53.1%で、逆にいうと関心がない人が半分近くいるということだ。SDGsについて一番知識を持っているのは10代で、逆に一番ないのは20代。おそらく学校の授業の影響じゃないだろうか? SDGs教育に学校が熱心に取り組むようになったのがつい最近だということのなのだと思う。10代と20代でかなりのギャップがあるので、「若者は~」みたいにひとくくりで扱おうとすると間違うことになる。
それでは、人々はSDGsに関わる行動をしているのだろうか? 実はぜんぜんしてない。ほとんどの項目で、「やったことがある」という回答者は10%前後。マイバッグの項目は50%を超えているけど、それは自発的にやっているというより、単にレジ袋が有料化になったからだろう。他に、リデュース・リユース・リサイクルの項目が40%近くに達している。ただこれも、たとえば燃えるゴミとプラごみの分別をやったり古紙回収にAmazon段ボールを出したりするだけでもリサイクルになるわけだから、人々がSDGsを意識して行動しているとは言いがたい。そう考えると、自発的にSDGsに取り組む傾向はかなり弱いのだといえる2。
以上をまとめると、SDGsは知名度は高いけれど、関心を持っている人はそこまで多くない。また、実際の行動に移している人は少数派だ、ということになるだろう。
SDGsはどの程度達成できてるの?
さっき箇条書きで述べたように、SDGsのゴールとターゲットは2030年を達成年限としている。今、2023年だ(しかも年末が近づいてる)。あと6、7年であの膨大なゴールとターゲットが達成できるのだろうか? まあ、常識的に考えれば無理だろう。
そして実際無理なのだ。国連の2023年の報告書ではSDGsの達成度がパーセント表示されている。具体的にどう計算してるのかはわからないけど、SDGsには232の指標があるというし、そういう指標で測ったのだということだろう。
ちょっと報告書の図を抜粋してみよう。
はい。これがSDGsの達成度の推移です。点線になってるのは、もしコロナ禍がなかったらこれくらいのペースで上昇していただろう~、というトレンド。実際の推移の方は実線の方だ。つまり、2022年時点で66%ちょっとしか達成できていない。
まあ、コロナ禍が終わったことで、これからペースはもっと上向きになるだろう。それなら2030年には達成できるのか? いや、できない。ロンボルグという統計学者は、今後はコロナ禍前の2015~2019年のペースで上昇するものと仮定して、達成年を予測している3。なんと、SDGsの達成度が100%に達するのは2078年だ。2030年という年限から半世紀近く遅れてしまうわけだ。というわけで、年限までのSDGsの達成は絶望的なのだ。
SDGsの前身のMDGsは優秀だった
実は、SDGsの前にも同じような取り組みがあった。それが、MDGs(ミレニアム開発目標: Millennium Development Goals)というやつだ。これも箇条書きでまとめてみよう4。
- MDGs
- 2000年の国連ミレニアム・サミットでの宣言をもとにして、2001年に策定
- 途上国の開発のための目標を立てた
- e.g., 2015年までに1日1ドル以下で生活する人々の割合を半減させるなど
- 目標が単純で明快なので、8つのゴールに資金が集中。一定の成果を上げられた
- 子どもの健康に対する資金提供は、1990年代は全世界で10億ドル未満だったが、2015年には80億ドルにまで増加した
- 貧困者の割合を半減させる目標は2015年以前の段階で達成できた
- 5歳未満の子どもの死亡数が急減。
成果がぜんぜん上がってないSDGsに比べると、MDGsはだいぶ優秀だ。ロンボルグによると、これは、解決すべき問題にきちんと優先順位をつけたからだ。保健問題に焦点を当てたので、子どもの健康に関連して資金が集中して、実際に子どもの死亡数がぐっと下がった。すばらしいことだ。
SDGsはなぜうまくいってないのか?
それなら、MDGsの第2弾をやれば良かったのではないだろうか。なぜSDGsなんてものを作ろうということになったのか? それは、MDGsにも少し問題点があったからだ。
- サハラ以南のアフリカにおいてはほとんどのターゲットを達成できなかった
- 平均値でみれば達成できていても、個々人でみれば達成できているとは限らない(国内に格差がある)
- ゴールが保健問題に偏っていて、環境問題に関するゴールは不十分
- MDGsは国際機関の専門家が決定したものであり、途上国の意向が十分に反映されているとはいえない
どれももっともな批判だ。しかし、こうした批判に応えようと思ったら、SDGsのように総花的なものにならざるを得ない。サハラ以南の人々にも配慮し、国内格差を解消し、環境問題に関するゴールを盛り込み、そして途上国の意向も十分に取り入れる…。ようするに「誰一人取り残さない」ということだ。確かにそれは正しい意見だ。しかし、どう考えてもとてつもないコストがかかるし、2030年までに達成できるとはとうてい思えない。現実主義者からみれば「ただの絵空事」としか見なされないだろうし、グリーンウォッシュの格好のお題目にもされやすい(だって、誰も成果を期待していないのだから)。結果的に、優秀だったMDGsとちがって、SDGsはポンコツに成り下がりつつあるというのが現状だと思う。
ゴールとターゲットが多すぎるということの他に、ロンボルグは次のようにSDGsの問題点を挙げている。
- 具体的にどうすれば達成できるかが不明確なターゲットがある
- 明らかにコストがかかりすぎるターゲットがある
- 具体的にどういうことなのかが曖昧なターゲットがある
たとえば、ターゲット4.4の「2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。」は、それを達成する方法があるのならそれぞれの国の政府がとっくに着手しているはずだろう。どうすれば達成できるかわからないからどの政府も苦労しているのだ。
あと、ターゲット9.1 「全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。」は、明らかにとてつもないコストがかかりそうだ。
ターゲット4.7「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。」は、何を言ってるのかよくわからない。
というわけで、問題解決をするときはちゃんと優先順位を決めないと、結局なにひとつ解決できないよ、ということ。なお、今回の記事の内容は、ほぼロンボルグの議論のパクリです。